1.はじめに
スモールワールド*1と聞いて、人形が踊っているイメージを持った人はディズニーランドに詳しく、リアルワールドを計算機に取り入れる大胆な試みを思い浮かべた人はかなりの計算機通だと思われる。
1991年にイギリスで開発されたスモールワールドは、当初から、ネットワーク資産を有する企業、自治体などでの適用を考えて作られているが、近年の設備投資を控え、既存の資産を有効活用する時代の流れや、テロや新型の病気などへの対策ツールとして最近にわかに注目を浴びている。*2
オブジェクト指向型情報処理構造をもつスモールワールドは、すべての資産をオブジェクトとしてモデル表現し、あらゆる施設を一枚の地図上に記述する。この点が、他の地図情報ソフトウェアとの大きな違いで、いわゆるレイヤー構造を使わずにすべての設備が同時に扱えるのである(図1)。
図3 送電網管理システムの画面例(土地所有権、野生生物、樹木などがオブジェクトとして扱われている)
(3)植生侵害管理
樹木の種別、現在の高さ、成長率などから、これからの樹木の送電線下への侵害リスクを計算し伐採やトリミングなどの時期を提示する。現地へ行くときの最適ルートも自動で検索できる。
(4)送電線クリアランス管理
ここでは、スモールワールドの扱うデータが、オブジェクト指向に基づいている点をうまく活用している。すなわち、樹木などをオブジェクトとして扱っているため、その種類によって成長のモデルが取り扱え、送電線とのクリアランスが計算でき、将来のシミュレーションも行える。データは、はじめにヘリコプターを用いて航空測量地図を作り、その上に地上から調べた樹木の種類、高さ、土地台帳のデータをのせている。これらが一枚の地図であらわされていることが大きな利点となる。データの更新は、毎週金曜日の午後に行われ、樹木の最近の様子、野生生物の動向などが入力され、資産・危機管理に最新データが使われる。
今年の夏には、各国で大規模停電が相次ぎ、そのうちのいくつかは送電線の樹木接触が停電拡大の一因となっていた。カナダと米国の調査委員会でも、2003年8月東部地区で大停電に至った3つの原因の2番目が、不十分な樹木のトリミングであったと指摘している。こうした理由からも、送電網の資産管理が着目されている。
*2 T. F. Garrity,"Implementing New Technology To Enhance Utility Operations,"CEPSI 2002 Fukuoka - Panel Session: Changes and New Businesses Brought about by New Technology, November, 2002
*3 送電網資産管理システムに関するホームページ http://www.geoplace.com/gw/2001/0501/0501geo.asp
送電電力の過負荷と風を考慮した送電線の弛み状態で、近くの建物、樹木とのクリアランスを計算し、危険度を求める。
(5)住民安全管理
送電線周辺に住む住民に送電線保守時などの連絡をスムーズに行うためのデータベースを地図上で管理する。
(6)広報活動
顧客データベースと地図情報を活用して地域住民への情報開示を行っている。
(7)原住民保護
アボリジニと呼ばれる原住民の施設など、政府の管理するデータベースとリンクし管理を行う。
(8)環境管理
国立公園などに生育する野生動物との共生、魚の産卵期の工事禁止期間などの管理、碍子洗浄液の河川への流入状態のシミュレーションなどを行う。
(9)構造物データ管理
送電鉄塔、変電所などのデータを管理する。
(10)システム保守
このシステムを保守する機能である。
(11)水力発電運用管理
水力発電所のダムや洪水の管理を行う。
-ネットワーク資産管理とは-
資産・危機管理のためのネットワークツール
Smallworld
鈴木 浩 工学博士
資産・危機管理が重要になってきている中で、地図情報と空間的資産管理とを統合したツールとして、「スモールワールド」が世界的に注目されている。オブジェクト指向型情報処理をベースとしたこのツールは、ネットワーク資産を持つ企業、自治体で活用されている。シームレスな地図、データのロングトランザクションバージョン管理、オープンな環境などの機能を持っている。電力、水道、通信、セキュリティ分野への応用例を通して、その機能を検証する。
図1 資産モデルを中核としたスモールワールドの概念
また、地図がシームレスにつながっており、パネル状に途切れてしまうことがないので、ネットワークのトレースもそのまま実現できる。この考え方は、施設の外部と内部に関しても実現されており、外部のネットワークがそのまま建物内部にまでつながって空間をどこまでもたどっていくことができる。
ネットワークを持つ企業では、施設計画のように長時間を要する業務や、運用や保守のようにリアルタイムでの利用の両方のアプローチが必要である。そのためには、データのロングトランザクションによるバージョン管理が有効に機能する。
オープンな環境を提供しているのは、最近のソフトウェアの一般的な傾向であるが、スモールワールドは、企業経営ツールや、作業管理のためのワークマネジメントツール、解析ツール、リアルタイム監視制御システムとの親和性もよく、多くの実用例が存在する。
北米の主要電力会社やフランスEdFなどをはじめとし、大規模な通信会社、鉄道会社、米国の国土安全保障省など、世界中で1,000をこえるユーザーに使われている。
本稿では、その典型的な適用例をいくつか取り上げ、その機能を理解いただこう。
2.電力分野への適用
地図情報や資産管理のツールを配電系統に適用することはわが国ではすでに多くの電力会社で実現している。ここでは、高電圧送電線の資産・危機管理にカナダの電力会社BCハイドロが適用している例を紹介しよう*3。このシステムは、送電網管理システムと呼ばれており、5年間で、約22億円をかけて実施中のプロジェクトである。しかし、毎年、約12億円のコストダウンにつながり、大きな成果を上げている。送電部門の社員平均年齢が52歳という状況もあって送電網管理のシステム化を加速している。
開発された送電網管理システムの機能は以下の通りである(図2)。
図2 送電網管理システムの機能
(1)資産台帳管理
送電網にかかわる資産を地図上で管理する。
(2)土地管理
送電線周辺の土地を地図上で区分し、権利の所有者の氏名、履歴などを管理する(図3)。