日本経済新聞社が2010年3月まで運営していたウェブサイト「日経エコロミー」に連載したものです。
この記事は2009年12月2日に掲載しました。
アラブ首長国連邦(UAE)の首都であるアブダビで建設が進む「マスダール・シティ」。再生可能エネルギーだけで成立するモデル都市計画で、スマート家電の効果を実証する実験が世界で初めて実施されます。人が居住する部屋に双方向通信ネットワークとスマート家電を設置し、スマート家電の動作を制御するとともに、その使用状況に関するデータを収集して効果的な省エネの実現を目指します。
この実験はアブダビ政府のマスダール・シティ計画に、米GEが協力するパイロット・プログラムという形で実施されます。再生可能エネルギーに立脚した都市整備に貢献することに加えて、限られたエネルギーを世界規模で効率よく使うことを実現する上で重要な実験となるでしょう。
再生可能エネだけで成立する都市、スマート家電の実験を開始(09/12/02)
■マスダール・シティを実験の場に
スマート家電の実験が行われるマスダール・シティは、アブダビの政府機関であるマスダールが建設を主導する環境共生型の都市です(右写真は完成予想図)。この都市の建設は、未来のエネルギー・ソリューションの開発と普及促進を目指すアブダビ政府の戦略的な計画を元にスタートしました。建設は2006年に始まっており、15年に完成する予定です。GEはアンカー・パートナー(最も重要なパートナー)として、この建設に協力しています。
マスダール・シティの特徴は、再生可能エネルギーだけで全体の電力を賄う世界初の都市という点にあります。太陽光や風力といった自然エネルギーを主な電力源として都市全体に供給するほか、カーボン・ニュートラル(炭素中立)やゼロ・ウェイスト(廃棄物ゼロ)の実現を目指します。
この計画では、環境と共生できる都市を作り上げるだけでなく、この取り組みを通じて再生可能エネルギーや環境エネルギーに関する技術に技術革新を起こし、研究や製品開発、製造における世界の中心地になることを目指しています。
■GE初となるエコマジネーション・センターを開設
GEは08年に、このクリーン・テクノロジーの集積地に「エコマジネーション・センター」を建設することを発表しました。マスダール・シティにおける研究活動の核となる「マスダール科学技術研究所」に隣接する4000平方メートルの敷地に建設される予定です。
このセンターでは、エネルギー効率の高い製品開発の取り組みを支援するととともに、マスダール地域社会における省エネ意識の向上を図ります。さらに、IT(情報技術)を駆使して電力の需要・供給量を常時把握し、最適に調整する次世代「スマート・グリッド」や浄水技術、省エネ家電、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの関連製品などを展示し、GEの技術を紹介します。
■10年に実験を開始
GEは09年10月に、このクリーン・テクノロジーの巨大な実験場とも言うべきマスダール・シティでスマート家電の実験を行うことを発表しました。10年の初頭に実験を開始する予定です。実験には、マスダール科学技術研究所内にある学生寮の10棟を使います。GE副社長のスティーブン・フラッダーは、「今回の取り組みは、GEとマスダール・シティが09年に結んだ持続可能なビジネス・ソリューションに関する提携と、革新的な新技術の共同開発に関するコミットメントに基づいています」と述べています。
実験を行う建物には、コンピュータ制御の「ホーム・エナジー・マネージャー(HEM)」を設置します。HEMは住宅設備に対する中枢システムとして機能し、一般消費者はエネルギーの発電状況や利用状況を確認することが可能になります。さらに各住居には220V、50Hz対応の冷蔵庫と電子レンジ、乾燥機能付き洗濯機の3種類のスマート家電を設置します。これらのスマート家電は双方向通信機能と高度な動作制御機能を備えており、通信機能によって収集した電力に関する各種の情報を考慮して、スマート家電の動作を自動で制御します。電力需要がピークになる時間帯では各住居の電力消費量を抑えたり、電力料金が一定レベルを超えて増えている住居があれば使用電力を抑えたりする使い手の需要に対応した制御が可能になります。
具体的には、「電気料金の増加幅が大きい」という通知をHEMが受け取った場合、冷蔵庫は除霜サイクルの稼働を遅らせ、冷蔵庫内の温度を数度上げます。こうしてエネルギーの消費量を抑えて電気料金を節約します。逆に、「電気料金の増加幅が小さい」という通知を受けた場合は、除霜を実行して冷蔵庫内の温度を従来の設定値に戻します。これらのプロセスはすべて自動で制御されるため、スマート家電のユーザーはその動作を意識する必要がありません。
■スマート家電と電力網一式の提供を目指す
この実験を通じスマート家電のユーザーが需要対応技術を利用した際に、エネルギー消費に関してどのような行動を起こすかを検証し、フィードバックを行います。GEでは、このパイロット・プログラムの結果を反映させたスマート家電の量産ラインを11年に立ち上げる予定です。将来的には、スマート家電から電力網までの一式を提供できる世界初のメーカーになる計画を立てています。
今回の実証実験は、マスダール・シティの「再生エネルギーのみによる電力の供給」「カーボン・ニュートラル」「ゼロ・ウェイスト」という方針の実現を、スマート・グリッドの計画や設計の側面から後押しすることになります。しかし、その効果はこれにとどまりません。限りあるエネルギーを世界規模で効率よく利用する技術の実用化に向けた「重要な一里塚」となるでしょう。
マスダール・シティの完成予想図。「環境と共生する都市」をコンセプトに掲げ,都市全体を電力再生可能エネルギーのみで賄うことなどを目指す。